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【ホンダ30年ぶり優勝】フェルスタッペンがアブダビGPでハミルトンに勝てた3つの理由【アブダビの奇跡】

2021年の締めくくりにうれしいニュースが舞い込んだ。

マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が、絶対王者ルイス・ハミルトン(メルセデス)を下し、弱冠24歳にして初のF1チャンピオンに輝いた。ホンダにとっても1991年アイルトン・セナ以来30年ぶりのタイトル奪取ということで、連日メディアを騒がせていた。

 

2021年のF1は史上まれにみる大接戦で、21戦サウジアラビアGPを終えた時点でフェルスタッペンとハミルトンは全くの同ポイント。つまり最終戦アブダビは「先にゴールしたほうがチャンピオン」というあまりにもシンプルな優勝決定戦となったのだ。

2014年にF1マシンがハイブリット化してからというものメルセデスが7年連続でチャンピオンに輝くほど圧倒的強さを見せつけ、にわかに「F1をつまらなくした」と囁かれるほどだった。(ルイス・ハミルトン 2014-15 2017-20王者、ニコ・ロズベルグ 2016王者)

そして今年2021年、ようやくメルセデス帝国に一矢報いるチャンスがやってきた。レッドブル・ホンダの若きエース、マックス・フェルスタッペンがシーズン開幕から絶好調。最終戦のアブダビGPまでに10勝を挙げるなど、初のシリーズチャンピオンへ向けてマシンを快走させていた。

しかし2位ハミルトンも負けじと食い下がる。シューマッハに並ぶ史上最多8度目のチャンピオンに向けて、着実にポイントを積み重ねてきた。シーズン終盤にはサンパウロGPから3連勝で最終戦を目前にフェルスタッペンと全く同ポイントで並ぶという凄まじい追い上げを見せた。

コースが改修され新たなレイアウトになったヤス・マリーナサーキット。夕暮れに始まった世紀の一戦はF1史に残る名バトルだった。出典:fia.com

そして迎えたアブダビGP。まさに神様が描いたシナリオとしか思えない、F1史上に残る壮絶な名バトルが繰り広げられていく・・・。

フェルスタッペンが王者に輝き、ホンダに30年ぶりのタイトルをもたらした「アブダビの奇跡」が生まれた理由を詳しく見ていこう。

 

 

 

フェルスタッペンが絶対王者ハミルトンに勝てた3つのワケ

1.セルジオ・ペレス、限界突破の鬼ブロック炸裂

アブダビGPは圧倒的メルセデス優勢だった。

チームメイトであるセルジオ・ペレスの好アシストのおかげもありポールポジションこそ獲得できたフェルスタッペンだったが、Q2でミディアムタイヤをつぶしてしまい、決勝はソフトタイヤスタートになってしまった。

アブダビGPの舞台、ヤス・マリーナサーキットのセオリーはミディアム→ハードの1ストップ作戦。寿命の短いソフトでは2ストップしなければならない可能性が高く、いくら抜きにくいサーキットいえども、ソフトタイヤスタートは不利だと予測された。

 

そしていざ決勝スタート。あろうことか、ポールポジションのフェルスタッペンは今季最悪のスタート失敗をしてしまい、2番グリッドのハミルトンにあっさり抜かれ先行を許してしまう。スタート直後は詰め寄ることはできたが、すぐにタイヤの限界がきてしまい、みるみるハミルトンに突き放されていく。1ラップごとにどんどん離される展開に万事休すかと思われた。

そこでたまらずフェルスタッペンピットイン。新品のハードタイヤにスイッチし猛追をかけるも後追いでタイヤ交換をしたハミルトンとの差は埋まらない。そこに立ちはだかったのが、チームメイトのペレスだ。予選で抜群のアシストを見せたペレスが、決勝でも大活躍のドライビングを披露した。

ソフトタイヤでロングランをしていたペレス。20周目に後ろからタイヤ交換をしたハミルトンが接近。ここでチームから無線が入る。「プランBだ。マックスが追いつくまでハミルトンをブロックしてくれ。」

盟友ペレスの超ブロック。10秒以上のギャップを築かれ絶望的かと思われたところを最高のアシストで援護した。この時の限界走行によりリタイヤすることに。出典:racingnews365.com

正直なところ厳しかった。ペレスは寿命の短いソフトタイヤが限界近く、フレッシュタイヤのハミルトン相手では分が悪すぎた。しかし、ここでペレスは今季一番といってもいい神がかりなドライビングを魅せた。

明らかにハミルトン優位な展開で決死のブロック。途中並びかけられたり抜かれたりしても、ここ一番の気迫のドライビングで先頭を譲らなかった。火花を散らし、エスケープゾーンギリギリでも構わず攻めまくるペレスの雄姿に人々は熱狂した。

結果的に1周半にわたり絶対王者ハミルトンを抑え込んだ。10秒以上あったハミルトン⇔フェルスタッペンのギャップは埋まり、ついに追いつくことに成功。お役御免となったペレスに「チェコ(ペレスの愛称)、彼はレジェンドだね」との無線が飛んだ。

 

ペレスはレース終わり際にリタイヤすることになるが、これはパワーユニットからデータ異常が検知されたため。実はハミルトンをブロックした影響でペレスのマシンは既に限界を迎えていたのだ。

文字通り限界を超えた走りでチャンピオン獲得をアシストしたペレス。20~21周目に見せた神がかり的ブロックはキングを守るナイトのような働き。かれなくしてアブダビの奇跡は起こりえなかっただろう。

 

 

2.No Pain , No Gain(痛みなくして成功なし)レッドブル陣営の英断

ペレスの神がかりアシストがあっても、やはりヤス・マリーナではメルセデスに分があった。両者ハードタイヤのイコールコンディションでも、ハミルトンの勢いは明らかにレッドブル陣営を凌駕していた。

ペレスの神援護でハミルトンの真後ろに着けたフェルスタッペンだったが、徐々に差をつけられ始め、タイムギャップは10秒を切るか切らないかに留まる。ハミルトンの勢いはタイヤを摩耗しても衰えることなく、彼の卓越したタイヤマネジメントとマシンセッティングがこれ以上ないくらいハマっていたのだ。

ホンダに30年ぶり優勝をもたらしたマシン。レッドブルとの強力タッグで躍進した第4期ホンダF1の挑戦は最高の形で有終の美を飾った。出典:racexpress.nl

このままではラチが明かないと、35周目にジョビナッツィ(アルファロメオ)がストップしたことによるバーチャルセーフティカー導入のタイミングで2度目のピットインを敢行。新しいハードタイヤに履き替えハミルトン追撃の策を講じた。

1ストップがセオリーのヤス・マリーナにおいて、これはものすごく攻めた作戦だ。残り20周弱で確実に追いつける勝算があったわけでもない。しかしその時できる最大限の攻めの作戦を行うことこそがチャンピオンへの試練の道なのだ。私はこの作戦にレッドブル、クリスチャン・ホーナーの攻めの姿勢を見たと思う。

この後優勝を手にするきっかけとなった運命の分かれ道が待っているのだが、そこでも即座にピットインの指示を出し、さらにマシンが限界のペレスを躊躇なくリタイヤさせる。随所に光った英断の数々。よほどの強心臓なければ一か八かの戦略はとれたものではないが、それをやってのけたのだ。

アブダビの奇跡を呼び込んだのは、何よりこの攻めに攻め続ける姿勢だったのではないだろうか。

 

『No Pain , No Gain』(痛みなくして成功なし)

まさにこの言葉がドンピシャなレースだったように感じたのは私だけではないだろう。

 

 

3.神のイタズラか?運命の分かれ道は53周目

フレッシュタイヤにしてもまだ運は向いてこない。ハミルトンのマシンは使い古したタイヤながらペースが落ちることはなく、無情にもフェルスタッペンは周回遅れを交わして前に進むのが精一杯だった。

残り10周ほどを残した状態でフェルスタッペンとハミルトンの差は10秒以上。ベストラップを刻んでも刻んでも差が縮まらない。打つ手なし。今度こそ万事休すかと思われた。

 

ところがレースも残り5周に入ろうかというところで、ニコラス・ラティフィ(ウィリアムズ)がクラッシュ。大破したマシンはコース上に取り残され、セーフティカーが出動。

ここでレッドブル陣営は迷わず3度目のピットインを敢行。フェルスタッペンは新品のソフトタイヤに切替えコースへ戻る。大破したマシンの回収がレース終了までに間に合えばハミルトンに追いつくことができると踏んだのだ。

ラティフィのクラッシュによりセーフティカーが出動。残り5周というところで起きた大波乱。両者の明暗がはっきり分かれた瞬間だった。出典:motorsportmagazine.com

結果的にこの作戦は大成功。コースマーシャルの迅速な対応のおかげもあり57周目に作業完了。最後の1周である58周目だけの超スプリントレースが展開されるのだった。ここで前に立ったものがシリーズチャンピオンになれる。わかりやすく単純明快な最後の決戦の舞台が用意されたのだった。

58周目レース再開時点ではこれまで圧倒的優勢だったハミルトンがついにピンチに立たされた。30周以上走ったハードタイヤはもう限界寸前。ピットインできるほどの十分なマージンもなく、寿命間近のタイヤでステイアウトを選択するしかなかった。

それに対してフェルスタッペンはセーフティカーラン中のロスタイム軽減を利用して、新品のタイヤのままハミルトンの真後ろにつくことができた。はじめフェルスタッペンとハミルトンの間には4台の周回遅れを挟んでいたが、FIAの指示によりこの4台のみ、セーフティカーの追い越しが認められた。

それはすなわち、ハミルトンとフェルスタッペンの今季最後のマッチレースが繰り広げられることを意味していた。

ファイナルラップでついに前に出たフェルスタッペン。新たなる王者誕生と、新しい時代の到来を予感させた。出典:driven.co.nz

ハミルトンが牽制しながら58周目がスタートすると、コーナーで早々にフェルスタッペンがオーバーテイク。ラスト1周で首位を取り戻し、そのままチェッカー。

99%勝利を確信していたハミルトンが破れ、1%の希望に賭けたフェルスタッペンが勝利した。セーフティカーが巻き起こす波乱がモータースポーツでは度々起こるが、ここまで劇的な展開はいったい誰が予想しただろう?まるで映画や漫画のようなシナリオに、神様のイタズタを疑ってしまう。

それに迷わずフェルスタッペンをピットに入れたレッドブル陣営の迅速な決断も見事だった。先手を打ったことでチャンスを生み出し、絶望を希望に変えた。運命とは攻め続ける者にしか訪れないのだな、と改めて思った。

 

 

 

政治に揺れた2021年のF1シーズン

因縁のシルバーストン

開幕から絶好調のフェルスタッペンと8度目の王者狙うハミルトン。両者はF1界ナンバーワンのドライバーであるとともに、コース内外で幾度となく対立を起こしてきた。

事の発端は今年のイギリスGP。シルバーストンサーキットで行われた伝統の一戦はわずか1周目で明暗が分かれた。スタート直後から激しいホイールトゥホイールになり、両者一歩も譲らぬ展開に。

ハミルトンとの接触で大クラッシュに見舞われたフェルスタッペン。タイヤバリアまで吹き飛ばされマシンは大破。出典:thesportsrush.com

そして高速コーナーに差し掛かるところで、外に膨らんだフェルスタッペンの右リアにハミルトンの左フロントタイヤが接触。そのままフェルスタッペンはタイヤウォールまで弾き出され壁に激突、マシンは大破。病院送りにされるほどの大きなクラッシュだった。

FIAはハミルトンにピットストップペナルティを与えたもののレースには勝利し、なんとも後味の悪い結果となった。優勝争いの真っただ中にいる両者は互いに「相手が悪い」と言い分を曲げず、結局ここでのもつれは最後まで影響してくることになる。

 

モンツァ、ハンガロリンク、ジェッダで膨らむ両者の対立構造

イギリスGPを皮切りにレッドブルとメルセデスの対立は日に日に激化。次戦のハンガリーGPではハミルトンのチームメイトであるボッタスが、スタート直後の1コーナーで追突。他車を介してフェルスタッペンに激突してマシンが大きく破損。赤旗中の決死の修復も及ばず、マシンは本来の性能を大幅に損ない、下位に沈んだ。

また伝統のイタリアGPモンツァ・サーキットでは両者相打ちリタイヤのクラッシュ。レッドブルもメルセデスも互いに「向こうが悪い」と主張を譲らず、裁判沙汰に発展するに至った。ホーナーとウォルフによる牽制し合いも激しくなり、レース前の記者会見では毎度舌戦が繰り広げられるように。

物議を醸したモンツァでのクラッシュ。両者互いに言い分を譲らず、この頃から対立が激しさを増すことに。出典:espn.com

運命のアブダビGPの直前のサウジアラビアGPでも軋轢が生じた。フェルスタッペンがハミルトンに順位を譲ろうとして追突されるシーンだ。これにはメルセデス代表のトト・ウォルフも激昂。愛用のBOSEのヘッドフォンをたたきつけるシーンがカメラに捉えられてきた。

 

そして周知のとおり、最終決戦アブダビではラスト1周のところでFIAのレースコントロールが「周期遅れのセーフティーカー追い抜き禁止」を発表した後、急に「追い抜き可」の指令を出した。これによりフェルスタッペンに千載一遇の大逆転のチャンス到来。見事ハミルトンをオーバーテイクし勝利を収めた。

もちろんメルセデスとしては面白くない。99%つかんでいた勝利をレースコントロールによって失ってしまったのだから怒り心頭だ。トト・ウォルフはレース中からマイケル・マシに猛抗議。レース後も裁定に納得がいかないとして、抗議の訴えを起こしていた。

 

政治に揺れた2021シーズン。奇しくも、最終決着は今シーズ幾度となく揉めてきたFIAによるジャッジによって勝敗が大きく傾いてしまった。私たち日本人は30年ぶりホンダの優勝に手放しで喜んでいるが、きっとドイツやイギリスのファンはモヤモヤした気持ちなのではないだろうかと思ってしまう。

 

F1は速いだけでは勝てない時代に

2021年を通して感じたことは、F1は”速いだけでは勝てなくなった”ということだ。

 

コンプライアンスが口うるさく語られるこの時代、単にドライバーの腕や優れたテクノロジーだけでなく、ルールやそれを取り仕切る御上とどう付き合うかを考えなければならなくなった。メディアへの印象やFIAへの折半。やれることは何でもやって勝つ時代なのだ。

もちろんセナプロ時代にだってレースアクシデントで揉めたことはいくらでもある。89年日本GPでのアイルトン・セナとアラン・プロストのチームメイト同士の相打ちクラッシュも当時は相当もめたものだ。だけど、今日ほどルールや裁判に執拗にこだわっていただろうか?

モータースポーツの多様性推進を目指した We Race As One。裁判沙汰で揉め事が多い昨今のF1を、まるで皮肉っているようにも取れる。

何が正しくて何がルールで何がフェアなのかは非常に難しい問題だ。300kmを超えるF1マシンが繰り広げるレースなのだから、ワンシーンワンシーンを切り取っていくと、どっちが悪くてどっちが良いなんて判断しかねるに決まってる。でも判定は出さなければならないから、一方が得をし一方が損をするようなジャッジも下さなければならない。

だけどそんなドロドロした中で、なりふりを構わず勝利をつかみとっていかなければ、もうこの時代のF1チャンピオンにはなれないのだろう。

「あそこは俺が悪かった」「俺のほうが無茶しすぎたな」竹を割ったようにサッパリした高潔で紳士なドライバーはもう現れないのだろうか。ミカ・ハッキネンのような強くて正義の味方のような存在が、どこか現れてほしいと思うのは私だけではないはず。

 

「公正」とか「正義」が求められるこの時代だからこそ、サーキットの外での争いが多い。4度のワールドチャンピオン、セバスチャン・ベッテルは過去に「F1はスポーツではなくなってしまった」と述べている。切磋琢磨し技術を磨きあう、本当の意味でのスポーツマンシップはいったいどこへ行ってしまったのか。

F1を長年にわたり牛耳ってきたバーニー・エクレストンが去ってからこういった問題はより顕著になったように思う。エクレストン自身「F1は民主主義ではなく独裁者が必要」と述べており、皮肉なことに、絶対の支配者が去り民主主義化が進むF1は、昔以上にドロドロした場所になってしまったのかもしれない。

私自身、F1はどうあるべきなのかまだ分からない。だけど純粋に速い者が勝つ世界であってほしいと思う。来年はマシンレギュレーションも変わるわけだが、この殺伐とした競争社会がどう変わっていくのか。まだまだ追いかけていきたいものだ。

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